家の「間取り」は素直な気持ち、感性を大切に
おそらく、家づくりを考える皆さんにとって、どんな「間取り」の家にするか決めていくことは最も楽しい部分だと思います。
それは、「間取り」が最も皆さんの暮らしに直結し、身近で、
家づくりの過程で最も誰にでもできる事柄であり、参加しやすい部分であるからです。
しかしそれは、専門性が低いということではなく、むしろ逆に「専門性の差」が一番現れる部分ですね。
今回は、誰にでもできるからこそ、誰にもできない分野である「間取り」について考えてみましょう。
「間取り」は芸術的側面が大きく作用する分野
歴史に名を残す建築家たちは皆、「間取り」か「デザイン」で伝説となっています。それはなぜか?。
それは、間取りもデザインも「実態がない」からです。
「素材」と「性能」は、理論であり、技術であり、“実在する数値”によるものです。
同じ物を使えば誰でも同じ効果を発揮し、同じ性能値を得ることができます。建築の「工学的部分」です。
それに対し、「間取り」と「デザイン」は抽象で、感性で、“実在しない創造”によるものです。建築の「芸術的部分」です。
故に、誰にでもできて誰にでもできない分野であるという意味はこういうことからで、
さらにわかりやすく説明すると、私の絵とピカソの絵くらいの差がついてしまう世界……ということです。
(余談ですが……大学の建築学科は工学部と芸術学部にあるということをご存じですか?
建築学では工学的側面と芸術的側面の両方が揃わないと本当の「完成」には至らないという考えから、
建築は「総合芸術」というとらえ方をしています。 家に置き換えれば、強度や安心安全面、快適性が工学的側面。
住みやすさ、使いやすさ、居心地など、住み続けてもらえること、必要とされ続けられることが芸術的側面になります)
良い間取りの決め手は「好き」という気持ち
では、何をもって間取りの「良し悪し」が決まるのでしょうか?
性能なら数値で、素材なら理屈や快適さという感覚で判断できますが、間取りやデザインは、単純に「好きか嫌いか」です。
もっと丁寧に言えば「腑に落ちるか落ちないか」。さらに具体的に言えば「この先の“楽しい暮らし”が“たくさん”想像できるか」どうか。
きっとその感覚は、旅行先を決めるときや旅館を決めるとき、食事をするとき、服を買うときの感覚に近いかもしれません。
しかし生涯をかける「家」ですから、旅行なら新婚旅行、旅館なら死ぬまでに一度は行きたい旅館、
食事なら記念日のデート……くらいの気合いで「好き嫌い」を決めてください。
とはいえ、高級フルコースやハイブランドのスーツを選ぶ必要はありません。逆に肩が凝って住むのが辛くなりますから……。
むしろ思わずウマい!と唸るしょうが焼き定食や、ものすごく着心地の良い普段着を見つけてほしいと思います。
極端に言えば、家というものはそのような手ごたえや肌感覚がなければ、いくら高性能でも、いくら地震に強くても、
気に入らなければそもそも建てる意味がないということです。
本当に住みたい家をつくるなら固定観念や先入観は捨てましょう
建てて転売するビジネスなら別ですが、本気で自分の家をつくるなら、自分をさらけ出して、心の底から素直になりましょう。
そうしないでつくった住まいはきっと後悔する時がきます。
そして「普通は」とか「一般的には」という言葉には騙されないでほしいのです。その言葉の裏側にあるホンネは、
・普通は=自分たちがめんどくさくないのは
・一般的には=ラクにつくるには
という意味が隠されています。
私たちプロの専門家、特に設計やデザインの部分を担う職種の人は、「間取り」と「デザイン」にプライドを持っています。
皆さんの「楽しいとき」ってどんなときでしょうか?
私たちは、そこにどれだけ近づけるかが「良い間取り」そして「良いデザイン」だと思っています。
このように家づくりはとってもシンプルなものなのです。それが、良い家づくり、後悔しない家づくりの大切なポイントなのです。
皆さんのもとにも、ただただ「好きな家」が届きますように・・・。